「ぼくらは地獄に堕ちるでしょうかね」
アレックスが言った。カトリックの修士号を持っていて、信仰深き若者でもあるアレックス。だから、目の前の地獄を放置することに関して、アレックスがこれまでどのように折り合いをつけているのかぼくには想像もつかない。任務から帰還したその日に、信頼できる神父に告解でもしているのだろうか。
「ぼくは無神論者だ。だから、地獄うんぬんについては気の利いたことは言えそうにないな」
「神を信じていなくたって、地獄はありますよ」
アレックスはそう言って、悲しそうに微笑んだ。
「そうだな、ここはすでに地獄だ」
ウィリアムズが笑う。ここが地獄だとしたら、ぼくたちの仕事は地獄めぐりということになる。ダンテもびっくりだ。
しかし、アレックスはそうじゃないと言って自分の頭を指差した。
「地獄はここにあります。頭のなか、脳みそのなかに。大脳皮質の襞のパターンに。目の前の風景は地獄なんかじゃない。逃れられますからね。目を閉じればそれだけで消えるし、ぼくらはアメリカに帰って普通の生活に戻る。だけど、地獄からは逃れられない。だって、それはこの頭のなかにあるんですから」
伊藤計劃 / 虐殺器官 (via hainooto)
